少年

すっごく久しぶりに能子姫の物語の続きを書きます。
スルーしてよいですよ。w


「おい、雅、雅ってば。」
「…ん、うん。」


自分を呼ぶ声に雅は引戻される。
身体がだるかった。
そのまま眠らせておいて欲しかった。
しぶしぶ重いまぶたを持ち上げた。


「な!」


知らない顔が目の前にあった。
男の子の顔だ、しかも超至近距離だった。
雅は意味のない叫び声をあげながら男の子を突き飛ばす。
男の子は部屋の隅まで吹っ飛んで壁に後頭部を打ち付けていた。


「い、痛ってー、ひっでえなあ、何すんだよ。」
「な、ななな、何なのよ、あんたは!」


あまりの驚きにうまく声が出ない。
やっと雅は疑問文を吐き出すことに成功した。


「何なのよってなんだよ、ずっと一緒だったろ、雅は母様を探すの手伝ってくれるって言ったじゃないか。」
「私そんなこと言ってない、何わけのわかんない事を言ってるのよ!」
「あーっ、そういう事をいうんだ、おっさんにも頼まれたろ。」
「だから何の話よ、私はあんたなんか…。」


雅の脳裏に桜の木の情景が浮かんだ。
武者姿の男、そして自分と一緒にいた少年、その少年の顔が目の前の男の子に重なった。
ただ、同じなのは顔だけだ。
あの時の少年は袴姿で話し方もとても上品だった。
目の前の少年はTシャツにGパン、しかも話し方には優しさのかけらも感じられない。


「思い出したかい。」


ニコッ、男の子が笑った。
今まで憤慨していたのに、雅はその笑顔が可愛いと思った。


「あなたのこと思い出したわ。でも、ごめんなさい、本当にあなたが誰だかかわからないのよ。」


男の子は口を尖らせて考え込んだ。
そして、ああと思いつく。


「じゃ、これならわかるだろ。」


男の子は瞳を閉じ両手の平を胸の前で打ち鳴らす。
と、途端に姿が掻き消えた。


「え、何処にいったのよ。」
「ここだよ、ここ。」


男の子のいた空間に空色に輝くピンポン玉が浮かんでいる。
雅はそれに見覚えがあった。


「あなたはあの時の…。」
「そう、雅は俺を助けてくれただろ。」


雅はやっと気がついた。
母親を助けたいと切実に願っていたあれがこの男の子だったのだ。
空色の玉は再び男の子の姿になった。


「おっさんが力をくれたからさ。」
「この姿は雅の心の中から拝借させてもらった、これおまえの理想なんだろ。」
「ば、ばか言わないでよ!」


雅は頬も耳たぶも真っ赤になった。
これが私の理想の男の子像だなんて違う、絶対違う、断言する。
そう言いたかった。