両雄

ボブ・サップ選手と、ドルゴルスレン・スミヤバザル選手の試合を
観ました。
スミヤバザル選手は横綱朝青龍関のお兄さんです。


この試合は、第1ラウンドが終了したところでスミヤバザル選手側
からタオルが投げ込まれ、サップ選手の勝利で終わりました。


お互い派手な打ち合いはありませんでした。
サップ選手が、スミヤバザル選手に押さえ込まれた状態が殆どでした。
あっけない幕切れに不完全燃焼の方もおられたかと思われます。


わたしの場合、あれはスゴイ試合だったと思っています。
ふたりのやりとりを息を呑んで見守っていました。


   開始のゴングが鳴る。
   サップ選手が、スミヤバザル選手に掴みかかる。
   スミヤバザル選手が、サップ選手の腕をかいくぐる。
   スミヤバザル選手が、サップ選手の隙をついて組み付く。
   サップ選手が、スミヤバザル選手を引き剥がそうともがく。
   スミヤバザル選手が、サップ選手に足をかける。
   ふたりがマットに崩れ落ちる。
   スミヤバザル選手が、サップ選手にのしかかる。
   サップ選手が体勢を変えようと体位をずらす。
   スミヤバザル選手の脚が、サップ選手の体位の方向に同時に
     拡がる。
   サップ選手が、スミヤバザル選手の耳を叩く。
   叩く。
   叩く。
   スミヤバザル選手が、サップ選手の側頭部に報復する。
   スミヤバザル選手が、サップ選手の体躯を固定した状態のまま
     側頭部を叩く。
   叩く。
   叩く。
   サップ選手が一瞬の隙をついて、スミヤバザル選手を押し返す。
   サップ選手が体勢を立て直そうと脚を踏ん張る。
   その僅かの間にスミヤバザル選手が、サップ選手に組み付こう
     と飛びつく。
   ふたりが交錯する。
   サップ選手が、スミヤバザル選手の背後から首に手を廻し圧迫
     しようと試みる。
   スミヤバザル選手が、サップ選手の腕を外そうと身体をひねる。
   再び、ふたりが交錯する。
   スミヤバザル選手が、サップ選手にのしかかる。
   第1ラウンド終了のゴングが鳴る。


すごく地味な攻防でした。
豪快に殴り合うというやり方もあったでしょうが、スミヤバザル選手は、
自分が殴り合いでサップ選手に勝てない事を知っていました。
だから、サップ選手を絶対立たせてはならなかった。
自分が彼に勝つ方法は、マウントポジションから打ち続けることし
かないと感じていたのでしょう。


スミヤバザル選手が、サップ選手をマットに押さえつけようとする技。
サップ選手が、スミヤバザル選手を引き剥がそうとする技。
それは、相い対する梃子の原理のぶつかり合いでした。
思考してやれることではありません。
ふたりは、身体の反応にまかせてあれだけの試合をやっていたのです。


スミヤバザル選手は、おそらく、第1ラウンドが終了するまで、
自分の身体の不調に気づかなかったのだと思います。
緊張がゆるむことで、感覚が急激に激痛を伝え始めたのです。
彼は崩れ落ちてしまいました。
闘いたくても身体が動かない。
無念だったと思います。


無念という気持ちは、サップ選手も一緒だったと思われます。
こんな勝ち方を望んでいなかった。
サップ選手の勝利が会場にアナウンスされた時の彼の表情からそれが
わかりました。


実に惜しい結末となりました。
両雄の再戦がかなり待ち遠しくなりました。