桜色の花弁


徹夜明けなので、妄想の神も降臨しやすいのだろうか…。
などど思いながら、能子姫の物語の続きです。
今回は雅ちゃんの夢物語です。


興味のない方は、軽〜うくスルーしちゃってください。


…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…


桜色の花弁が降っている。
雅を取り囲むかのように舞っている。


今まで見たこともない大きな桜の木が雅の目の前にあった。


雅は夢を見ていた。


ふと気づくと桜の木の根元に男が座っている。
侍なのだろうか鎧を身に着けていた。


男は握り飯を手に持ち頬張っている。
顎を大きく動かし微笑んだような表情で握り飯を平らげていく。


雅は男性がご飯を美味そうに食べる表情を見るのが好きだった。
彼女の父親がそういう男だった。
雅はこの男に興味をもった。


   「おじさん。」


雅は男に話しかけると彼の隣に座った。


   「お、おう。」


どうやら食べるのに夢中で雅に気づいていなかったようだ。
少し驚いたようだったがすぐに優しげな表情に変わった。


   「こんな所で何をしているの。」


雅は聞いてみた。
男は握り飯を頬張るのをやめて桜の木を仰ぐ。


   「戦がもうすぐ始まる、負けられない戦がな。
    その前にこの老いぼれに挨拶しておこうかと思うてのう。」


老いぼれとはこの桜の木の事を言っているらしい。


   「ほれ、お前も食うかよ。」


雅の目の前に握り飯が差し出された。
無骨な手だった。
雅はその手に頼もしさを感じていた。


   「ありがとう。」


男は嬉しそうに微笑むとまた握り飯を頬張り始めた。
雅も握り飯を頬張ってみる、それは今まで食べた事のないほど美味しかった。


   「さて。」


男は最後の握り飯を食べ終わるとすっくと立ち上がった。
それにつられて雅もあわてて立ち上がる。


   「じじい、達者に暮らせ。」


男は名残惜しそうに桜の幹をぺたぺたと叩きながらそういった。


   「あんたと話せてよかったよ、じゃ、俺は行くからな。」


男は振り向くと雅に向かって笑ってみせた。


   「そうだ。」


桜の木の反対側に消えようとしていた男が振り返って思いついたように言う。


   「あんた、ひとつ頼まれちゃもらえねえかなあ。」


無骨な手からころりと生えた人差し指が申し訳なさそうに鼻を掻く。


   「珠玉を取って来て欲しい、この戦の勝敗がかかった大事な宝だ。
    本当なら俺がやらなきゃならねえところだがいろいろと訳ありでね、身動きがとれねえ。
    どうしたもんかと思いあぐねていたところよ。
    あんたなら目立たずにうまく取ってこれるかもしれねえからな。」


雅は驚いた。


   「で、でも、私に何が…。」


男は微笑むとおうおうと頷いた。


   「頼もしい相棒がいるだろ、ほれ、あんたの後ろによ。」


慌てて雅が振り向くとそこに上衣と袴を身につけた男の子が立っている。
自分と同年齢ぐらいだろうか、真っ直ぐな眼差しで見つめられ雅は頬が熱くなるのを感じた。


   「な、何をすればいいのよ。」


雅は不覚を誤魔化すために慌てて男に聞き返した。


   「可愛い女だなあ、あんた。」


全部ばれてる、雅の耳が気恥ずかしさで真っ赤になった。


   「そうさなあ、俺の身内に迎えに来させるとしようか。
    女だがめっぽう強ええぜ、頼りになるからよう。
    好きに使ってくれりゃいい。」


男はそう言い残すと先ほど行こうとしていた桜の木の反対側に消えていった。


   「あのねえ…。」


それでは何もわからないではないか、雅は少し腹が立った。


   「雅、僕たちも行こうか。」


唐突に声を掛けられて吃驚する暇もなく、声の主は雅の手を引っ張って桜の木に向かって進んでいく。
自分の背後にいた男の子だった。


   「ち、ちょっと、あなた誰よ、私を呼び捨てにしないで。」


やっとそれだけ言えたが男の子は全く聞いてくれない。
桜の木がどんどん近づいてくる。


   「ぶ、ぶつかっちゃうってば…。」


急激に雅の意識が遠のいていく。
桜色の花弁は変わらず降り続いていた。


…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…


新キャラが一度に二人も登場と相成りました。
この二人が誰なのか察しのいい方はもうお解りかと。w


雅ちゃんの出番もこれから増えていく予感ありです。
ということで、乞うご期待です。