再会
久しぶりの能子姫の物語です。
前回から少し間が開いてしまいました。
相変わらずの妄想なので興味のない方は軽くスルー願います。
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今まで熱心に祈りを捧げていた最後の一人が席を立った。
彼は聖堂の入り口に向かうと貝殻に溜めてあった聖水を指につけ虚空に十字を描くともう一度祭壇を仰いで立ち去っていった。
どこの教会でも行われるミサの日だった。
まるで映画に出てくるような金髪で青い瞳をしたやさしい面持ちの男、ベンジャミン神父がこの教会を任されてからもう十年が経とうとしている。
ベンジャミンは日本に惹かれていた、ここへ赴任する話が持ち上がった時その役を自ら買って出たほどだ。
自分にはこの国が似合っていると感じていた。
ベンジャミンはふと誰かに見られている気がした、最後の一人が先ほど帰ったばかりで聖堂には彼しかいないはずだった。
訝しがりながら振り返ると一番後ろの席に若者が座っているのに気がついた。
「どうかされましたか?」
ベンジャミンの日本語は流暢だった。
若者は微笑んだ。
「私はひとを探しに来ました、かなり昔からの友人です。」
ベンジャミンは困惑した、聖堂には彼と自分しかいなかったからだ。
「あなたがお探しの方はここにはいません、
それともミサに訪れて頂いたどなたかとお知りあいなのでしょうか。」
若者は席を立ち祭壇に向かう通路に出た。
「いいえ、私が探していたのはあなたですよ、ベンジャミン神父。」
ベンジャミンは驚いた、日本人離れした端正な顔立ちの若者ではあるが彼は自分と同郷ではない。
全く覚えがなかった。
「私ですよ、弁慶。」
ベンジャミンには彼が何を言っているのか理解出来なかった。
ただ、彼の言う”ベンケイ”という響きに不思議な懐かしさを感じていた。
「思い出せませんか、では、これならどうです?」
若者がゆっくり右手を持ち上げた瞬間、ベンジャミンの視界が大きく入れ替わった。
彼の周囲には植物の生い茂り、甲冑に身を包んだ大勢の武者がこちらを取り囲んでいる。
自分の容姿も変わっていた。
白の被り物をして甲冑を身に着け、手には長い棒の先端に刀の取り付けられた武器が握られていた。
「殿、行ってくだされ。この場は拙僧が食い止めまする故。」
「それは許さぬ、お前も一緒に来るのだ。」
自分はあの若者を守ろうとしている…あの若者は一体誰なのだ。
ベンジャミンは思った。
キリキリキリ…。
周囲の武者が自分たちに矢を射ろうとしている。
弓が満月のようにたわみ始める。
「殿ォ、許されよッ。」
ベンジャミンは渾身の力で若者を突き飛ばした。
「弁慶ええーッ…。」
背後の谷に消えていく若者を満足げに見やり敵を見据えると手にした武器を杖代わりに仁王立ちとなった。
「ここから先には行かせぬッ。」
ベンジャミンがそう言い放つのと彼の身体中に矢が突き刺さるのが同時だった。
彼の視界が暗黒に変わった。
「気がつきましたか、弁慶。」
聖堂だった。
先ほどの若者が自分の傍らで微笑んでいる。
ベンジャミンは頭を振って立ち上がった。
「殿、ご無事で何より。」
ベンジャミンの口から自然と言葉が出た。
若者は嬉しそうに笑った。
「うん、久しかった。」
ベンジャミンは自分がここにいる理由を初めて理解していた。
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今回の主役、ベンジャミンは実は前回登場しているんです。
ソニンさんと闘ってましたよね。
弁慶は異国に生まれ変わり、やはり宗教者として生きていました。
日本に渡り義経との再会をずっと待っていました。
そろそろ物語も佳境に突入していきそうです。
一体どんな展開になるのやら、乞うご期待です。