能子姫の物語の続きです。
今回、またまた新キャラ登場、しかもキッズからです。


毎度ながら興味のない方はかるーくスルー願います。
(この物語を別枠に移さなきゃと思いつつ、なかなか手につかない悩ましさ)


…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・


所々に大きな石が見え隠れする遠くまで広がる砂浜。
雅はその石の一つにちょこんと坐っている。


潮騒の音。
波。
波に照り返す陽光のキラキラ。
遠くを行く船の影。
海鳥の囀り。


雅は海が好きだった。
ただぼんやり水平線を見つめるのが好きだった。
自動車の窓から見えた景色に惹かれ、運転する父親に我儘を言ってここへ立ち寄ってもらったのだ。


傍らに友達の太郎がいる。
オスの柴犬、夏焼家のペットだった。
生まれてから半年足らずの彼は砂浜を駆け回りたくてウズウズしていた。


   「だめよ、太郎。
    あなた、すぐどっかへいっちゃうんだから。」


言葉の意味が理解出来ているのか太郎はクリクリとした瞳で雅を見上げる。
雅はその表情がたまらなくなって太郎の顔を両手でくしゃくしゃに撫でてみせた。
太郎はそうしてもらうのが嬉しくて雅の小さな手のひらに噛み付いた。


   「…さま。」


雅は不意に誰かの声が聞こえた気がして太郎を撫でる手を止めた。
辺りを見渡してみるが声の主は見当たらない。


   「…母さま。」


今度ははっきり聞こえた、ただその方角は海だった。
雅は海に目を凝らした。


   「あれ…」


海面から少し上にピンポン球のようなものが漂っている。
もっとよく見ようと身を乗り出した時、それは雅に向かって近づいてきた。


   「…母さまのところへ。」


また聞こえた。
それと雅の距離がどんどん近くなる。
近づくにつれてそれは空色に輝いていることがわかった。


   「…母さまのところへ。」


それは雅が手を伸ばせば触れられる距離で浮いている。
太郎がううと唸った。
チビでも一人前に主人を守ろうとしている。
雅は太郎の気持ちが微笑ましかった。


   「いいのよ、太郎。」


太郎が不思議そうな表情で雅を見上げた。
雅は太郎の頭を撫でるとそれに向かって話しかけてみた。


   「お母さんがどうかしたの?」


それは雅の言葉に肯定するかのように一瞬眩く輝いた。


   「…母さまが呼んでいる。」


それの輝きがどんどん増し始めた。
不思議とそれはやさしい輝きだった。


   「わたしに出来る事があるかしら?」


それが発する波動は切実な願いでもあった。
雅は助けてあげたいと思ったのだ。


   「…母さまのもとへ。」


それはさらに雅に近づいた。
いったん雅の胸の前で静止するとそのまま雅の中に消えていった。
違和感は感じなかった。
ただ、それの意識だけは雅の傍らにいるのがわかる。


   「そうね、早くお母さんを見つけなきゃ。」


雅は立ち上がるとお尻についた砂をはたいて落とした。


   「おおい、雅い、そろそろ行こうかあ。」


父親が呼んでいる。


   「はあい、いま行きまーす。」


雅は太郎を抱き上げると砂浜を駆出した。


…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・


この物語ってば、風呂敷の拡げすぎじゃないのかいってどんどん心配になってきております。
そろそろ役者も出揃ったのではないのかなあって思うのですが、心の中でまだまだって声が聞こえたやうな。(汗
ええい、突っ走るしかないか。


という事で、先の見えない話ですがおつき合いください、乞うご期待。