セッション

HAPPY Xmas SHOW!
かなり興奮している。
わたしは、番組を観ていてテレビ局に感謝した事など一度もなかった。
今回は違う。
山下洋輔さんの演奏で松浦亜弥が歌うのだ。
この組み合わせは奇跡に近い。


山下洋輔
日本を代表するジャズピアニストである。
彼の奏法は、フリーフォーム。
即興である。
譜面を持たない。
ネタバレなど存在しない。
自分の魂の叫びを思いっきり鍵盤に叩きつける。
躍動的であり、時に静逸であり。
そんなメロディを生み続けるアーティストである。


放送では、山下洋輔さんのみクローズアップされ、他のメンバーは取り上げられなかった。
しかし、すごいメンバーが来ていたのだ。


高橋信之介(ドラム)
水谷浩章 (ベース)


残念ながら、サックスの竹内直さんがいなかった。
ここに彼が加われば、山下洋輔さんのグループ「4G UNIT」の演奏だったのである。


そして、松浦亜弥が歌う。
ジャズ・シンガーあややを観るのは初めてだった。


   ”ちゃんと歌えるのだろうか…”


彼女の事だから大丈夫だろう。
などど思っていたのだが、内心かなり不安だった。


さんまさんとのトークも終わり、あややと山下さんが演奏のために席を立つ。
そして、それは始まった。


   ”うっ。”


まだ、演奏は始まっていない。
あややが気持ちを溜めに入っただけの事。
なのに、瞬時に辺りの気が張り詰めるのがわかった。
彼女たちの周囲だけ空気の層が厚くなったのを感じた。


恋人がサンタクロース


松任谷由実のそれとは全く違う。
ジャズ・アレンジバージョン。


山下さんの指が鍵盤の上を流れる。
かろやかに。


山下さんがグングンみんなを引っ張る。
高橋さんのドラムが、水谷さんのベースが、
先行するピアノの旋律に追従するように音をのせていく。


そして、あややの歌声がピアノの旋律に加わる。


   ”うぅ…”


演奏に見事に溶け込む発声。
以前からずっとこのメンバーでやっていたと思わせる違和感のなさは驚きである。


あややの声が若い。
蒼いと表現したほうが適当だろう。
だが、それは経験のなさからくるものであり、決して彼女が無理をしているようには感じない。
いや、感じさせないのか。
本当は限界ギリギリなのに、いつものように彼女の笑顔に騙されているのかもしれない。


あややの歌声が低域から高域へ駆け上がる。
微妙なビブラート。
それがピアノの旋律にいい感じに混ざり合う。
渾然一体。
聴くものを酔わせる魅力が確実に感じられた。


松浦亜弥は天才である。
どこでも語られることではあるが、それがポップスという枠の中だけに限定されるのであれば、
言い過ぎだと思う。
ジャンルを問わず歌い上げる歌唱力、表現力、感性。
あややの実力をまざまざと見せつけられた瞬間だった。


わたし的に、今回の演奏はお金を払って観てもよいレベルだった。
いや、観たい。
このメンバーでのコンサートを企画してもらいたいと切に感じる。
これが実現すれば、遠方といえど必ず馳せ参じようと思う。
(ジャズコンサートなので、踊ったり、回ったりしないでね)


ジャズは感性である。
即興が大手を振ってまかり通るジャンルなのだ。
考えてみると、松浦亜弥を支えているのはまさに感性なのである。


松浦亜弥の展望がジャズ・シンガーであるのなら、わたしはかなりうれしい。
そうなってほしい。
あややの新たな一面に触れ、本気でそんな事を思い始めた。